船舶の運航では、ブリッジでの計器確認や見張り、離着桟や狭水道通過時の判断など、乗組員の視線の配分が安全性を大きく左右します。こちらでは、アイトラッカーを活用した船舶運航における視線データの分析方法をはじめ、海技士教育・ヒューマンエラー防止への活用法、船舶用アイトラッカーの選び方について詳しく解説します。
安全管理や教育体制の向上を検討している担当者の方は、ぜひ参考としてご活用ください。
船舶の操縦を担うブリッジには、レーダーやECDIS(電子海図情報表示システム)、コンパス、エンジンテレグラフなど、操船に欠かせない計器が数多く並んでいます。アイトラッカーを使えば、航海士の視線が計器群と窓の外(海面や他船の目視)のあいだをどのように行き来しているかを、時系列のデータとして正確に把握することが可能です。
外洋を航行しているときと沿岸や輻輳海域に近づいたときとで、目視での見張りと計器チェックの配分がどう変わるのかも、感覚的な評価ではなく数値として客観的に捉えられるようになります。これはBRM(ブリッジ・リソース・マネジメント)の観点からも非常に有効なデータと言えます。
船舶は昼夜を問わず運航するため、乗組員には長時間にわたる当直が課せられます。アイトラッカーの記録には視線の位置や停留時間だけでなく、まばたきの頻度・速度や瞳孔径の変化といった細かな眼球の動きも含まれるため、景色の変化に乏しい単調な航行が続く場面でも、疲労の蓄積やマイクロスリープ(瞬眠)の兆候を数値として捉えることができます。
居眠りや漫然とした見張りは、海難事故の主要な原因のひとつです。乗組員の覚醒状態や集中力を客観的に把握するうえで、アイトラッカーの記録は安全運航の重要な指標になります。
港への出入りや船舶が行き交う狭水道を通過する場面では、瞬時の判断力と高度な操船技術が求められます。こうした緊張を伴う状況下で、操船者がタグボートの動きや岸壁との距離、風向・風速の数値をどういう順番・頻度で確認しているかを、アイトラッカーは詳しく追従します。
刻々と変わる海象・気象条件のなかで、熟練の船長や水先人がどのように状況を捉え、危険を予知しているのか。その暗黙のメカニズムを、視線データという客観的な切り口から解き明かすことが可能になります。
航海士や機関士といった海技士の養成において、陸上に設置した操船シミュレーターにアイトラッカーを取り入れる動きが進んでいます。この訓練で経験豊富な船長と経験の浅い若手航海士の視線を比較すると、他船の動きなど危険をいち早く察知するための視線の運び方や、膨大な情報の中から必要な計器だけを見極める優先順位づけといった、言葉では伝えにくい技術(暗黙知)が浮き彫りになります。
訓練生自身の視線映像を使って振り返りを行えば、具体的なフィードバックが可能になり、操船スキルをより効率的に習得できるようになるでしょう。
船舶の衝突や座礁といった重大な事故の背景には、見張りの不足や操船の判断ミスといったヒューマンエラーが潜んでいることが少なくありません。
アイトラッカーのデータを検証することで、事故発生時に「そもそも他船に視線を向けていなかった」のか「視界には入っていたが危険だと認識できていなかった(Looked but failed to see現象)」のかを正確に切り分けて分析できるようになります。また、過去のヒヤリハット事例と視線データを重ね合わせれば、人がどのような状況で錯覚を起こし、見落としやすいのかというパターンも見えてきます。
こうして得られた知見は、当直体制の見直しや安全マニュアルの抜本的な改善に直接つながります。
近年の船舶は統合型ブリッジシステム(IBS)などの導入によりシステムが高度化し、航海計器に集まる情報量も飛躍的に増加しています。その一方で、情報過多が「アラーム・ファティーグ(警報疲れ)」を引き起こし、乗組員の判断の遅れにつながるリスクもはらんでいます。
実際に航海士の視線データを集めて分析すると、緊急時のアラートが目に入りにくい位置に表示されていることや、画面レイアウトのせいで直感的な判断ができず視線移動に無駄が生じていることなど、UI/UX上のさまざまな課題が明らかになります。
得られた知見を踏まえて人間工学の観点から画面を設計し直すことで、乗組員の認知的な負担を減らし、より安全で確実な操船環境を構築することにつながります。
航海士は見張りの際に双眼鏡を頻繁に使用します。そのため、目元を圧迫しない薄型のウェアラブル(グラス)型や計器盤の近くに設置する非接触型など、普段の業務や他の装備の使用を妨げない製品を選ぶことが大前提となります。
昼夜を問わず運航する船舶のブリッジは、強烈な直射日光から夜間の暗闇まで明るさが目まぐるしく変わる特殊な環境です。海面からの照り返しなどの外乱光(赤外線)がある状況でも瞳孔や角膜反射を安定して捉えられるよう、サンライトプロテクション機能を備えた光の影響を受けにくいモデルを選ぶことが大切です。
操船シミュレーターと連携できる拡張性があるかどうかを、あらかじめ確認しておきましょう。また、実際の実船での計測を想定している場合は、海風や湿気、船体の揺れにさらされる環境を踏まえ、一定の耐久性・防滴性を備え、頭部の動きを補正するIMU(慣性計測装置)を内蔵した機器を選ぶことも重要です。
アイトラッカーを活用すると、計器の確認や見張り、当直中の覚醒状態、離着桟時の判断といった、これまでブラックボックスだった乗組員の視線の動きを定量的なデータとして残すことができます。得られた情報は、乗組員教育の質を高めるために役立つだけでなく、ヒューマンエラーの防止や航海計器のインターフェースを見直す際にも大きな力を発揮します。
実際に導入を進めるにあたっては、装着のしやすさや直射日光への耐性、実船での運用のしやすさといったさまざまな観点から、自社の運航スタイルや目的に適した機器をしっかりと検討することが大切です。
以下のページでは、自社に適したアイトラッカーをお探しの方に、特徴の異なる主要製品を紹介しています。製品選びの参考として、あわせてご覧ください。
ここでは、アイトラッカーの導入を検討している方向けに技術者による導入サポートとデモの開催や対応をしているアイトラッカーを目的別にご紹介しています。目的と用途に合わせて装置をピックアップしていますので、ぜひ製品選びの参考にしてください。
運転時や現場点検の
視線行動を計測したい


| レンタル可否 | 〇 ※1週間単位 |
|---|


| レンタル可否 | 〇 要問合せ |
|---|


| レンタル可否 | 〇 ※月単位 |
|---|
※2023年8月1日調査 googleで「アイトラッカー」で検索して表示された、アイトラッカー取り扱い企業の上位17社の中から、技術者による導入サポートとデモの開催または対応を行っている企業をピックアップし、以下の特徴で選出。
現場の複数箇所の視点を計測したい…唯一、導入企業の現場に合わせたカスタマイズ性と持つ装着型アイトラッカーを提供
対象物1点の細かい視線を追跡したい…唯一、視線データの取得量が一番高く(1200Hz)、マイクロサッカードを含む無意識な眼球運動を計測できる据え置き型アイトラッカーを提供
VRで再現された空間の評価をしたい…唯一、空間体験をしながら計測が可能なヘッドマウント型ディスプレイの装着型アイトラッカーを提供